アドラー心理学サロンです。
アドラー心理学はフロイトの原因論とは対になる目的論のスタンスを取っており、アドラーは「現在は過去に規定されない」としています。
同じ経験を経ても、今のあり方は自分自身で設定した目的に沿って決めているのだとしております。
つまり、トラウマなんて存在せず、たとえば引きこもりの人は外に出られないのではなく、家に引きこもって外部の世界でこれ以上傷付きたくないという目的を達成する為に引きこもっているとアドラーは解釈できるとしています。
アドラーの考え方は時に根性論のように聞こえますが、過去からの影響はあるとしておりますので、決して根性でなんとかすべきという訳ではなく、過去からの影響に対する自分の中での意味づけを変える必要があるとしています。
アドラーの言う「意味づけ」とは、簡単に言うと捉え方、感じ方のことです。アドラーは世界は自分自身が与えた意味づけによって定義され、他人とは互いに世界を共有することはできないとしました。
では、前置きが長くなりましたが本記事では過去への意味づけの変え方について、具体的な方法を解説させて頂きます。
信頼していた相手からの裏切り、他人から受けた暴言や嫌がらせを受けた時の悲しさ、怒り、悔しさ、驚きというのはそう簡単に消えるものではありません。
その一方で、過去の出来事にいつまでもこだわり、思い悩んでいる自分を残念に思うこともありますよね?…
相手へのネガティブな感情や思いを抱えていると、もやもやとした思いが募っては相手を責めたり、自分に無力感を覚えて虚しさを感じて自己肯定感まで下がってしまいます。
そんな時に一番大切なのは、自分が抱えている苦しい感情をしっかりと認識することです。
その為に有効なのは、紙に自分の感情を書き出してしまうことです。
この方法については他の記事でも度々ご紹介させて頂きました。「紙に書き出すだけで気持ちが収まったら苦労しないよ!」というお声が聞こえて来そうですが、この方法は「エクスプレッシブ・ライティング」というれっきとした心理療法です。
1980年頃に誕生した長い歴史を持つ心理療法として、現在でも数多くの精神科や心療内科で実践されている非常に有効な治療法でもあるのです。
ポイントとしては、辛かった出来事を思い出して、その時の感情を思い出して紙に書き出すことです。
最初はめちゃくちゃな書き方で、「ふざけんな!」、「許せない!」なんて暴言にしかならないかもしれませんが、そのままとにかく書き出してしまうのです。
すると不思議なことに忘れたくても忘れられず、あなたを苦しめていた過去の記憶が薄まって、こだわらなくなってきます。
これはなぜかと言うと、人間の脳はぼんやりとしたことはいつまでも気になってしまい、忘れられないのに対して整理して区切りをつけると忘れられるのです。
つまり、あなたの経験した辛い記憶は、区切りをつければ勝手に消去されるようになっているのです。
アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナー氏が行った「シロクマ実験」の結果で、この区切りをつければ人間は忘れられる性質を立証されました。
シロクマの1日を追うドキュメンタリー映像を、実験の参加者を3つのグループに分けて観てもらいました。
それぞれのグループには、下記のような指示を出していたのです。
グループA:「シロクマのことを覚えておくように」
グループB:「シロクマのことを考えても考えなくてもいい」
グループC:「シロクマのことは絶対に考えないで」
実験の結果、もっとも鮮明にシロクマのドキュメンタリー映像の内容を記憶していたのは、グループCで「シロクマのことは絶対に考えないで」と指示されていたグループでした。
ウェグナー氏は、この実験の結果を受けて「何かを考えないように努力すればするほどに、その記憶から逃れられなくなる」という脳の性質を発見し、「皮肉過程理論」という論文にまとめ上げました。
つまり、考えないようにすればするほど、その記憶は強固に定着してしまうので、エクスプレッシブ・ライティングで紙に書き出したら、その内容を更に深めて「自分はいつ、どんな時にその辛い出来事を思い出してしまうのか?」そのタイミングも記録できるように感情日記も付けましょう。
思い出してしまった時には、「こう考えよう」、「これをやろう」と自分の中でルールを作っておけば過度に落ち込んだりすることも避けられます。
こちらの対処を考えることは、アドラーの言う過去の出来事への意味づけを変えることにもつながります。
エクスプレッシブ・ライティングによって、自分の過去の辛い記憶を薄めると同時に、対処する方法まで見出すことができるのです。
また、悩み事をただ考えたりと頭の中にだけで留めておくと、悩みが無限にあるように感じて圧倒されてしまい、自己肯定感は急下降してしまいますので、紙に書き出して可視化することによって、悩み事は無限ではなく有限であり、自分でコントロールできる安心感を得ることができます。
平穏に過ごす為にも、問題点を事前に把握しておくことはとても大切なのです。